あと少し

日常エッセイ

夕方、段ボールが届く予定だった。

実家に送る荷物を詰めるためのものだった。

あと少し。

準備が終われば、ここから出られる。

日記には、そう書いていた。

その日も、朝はいつもと同じだった。

朝ごはんを食べて、

少し簿記の勉強をして、

息子が起きたらハニーミルクを作った。

最近ハマっているゲームの話を聞きながら、

私はドラマを見たり、編み物をしたりしていた。

洗濯をして、

お昼にはいつも通りおじやを作った。

体調はまだ安定していなかった。

少し食べただけでお腹が苦しくなったり、

動悸がしたり、

横になって休んだりする日が続いていた。

そんな毎日の中で、

実家へ行く準備をしていた。

持っていくものを、

少しずつまとめた。

夕方、注文していた段ボールが届いた。

夫にはまだ見られたくなくて、

クローゼットにしまった。


それからも、いつもの生活は続いた。

朝ごはんを作って、

息子のゲームに付き合って、

ドラマを見ながら編み物をした。

体調が悪い日は横になって、

動けそうな日に少しずつ荷物をまとめた。

実家へ持っていくものを選んでいると、

この家に置いていくものも気になった。

もう使わないものは、

できるだけ手放してから行きたいと思うようになった。

実家へ行く日も決めた。

夫の仕事の予定が変わって、

それに合わせて日を変えようか迷ったこともあった。

でも、やっぱり予定どおり行くことにした。

少しずつ、

段ボールの中に荷物が増えていった。


ある夕方、夫にLINEを送った。

しばらく息子と実家へ行くことを伝えた。

「わかった。体調は大丈夫か?」

と返事が来た。

大丈夫じゃないから言ってるのに、と思って、少し笑ってしまった。

カレンダーにも予定を書いて、

息子にも実家へ行く日を伝えた。

二日後、夫が私に聞いた。

「今回の帰省は、いつぐらいを目処にするの?」

「決めてないよ」

そう答えた。

しばらくして夫は2階へ上がり、

まとめてあった荷物を見つけたようだった。

降りてくると、小さな声で、

「荷物すごいまとめてるけど、離婚とかじゃないよね?」

と聞いた。

「え? 違うよ」

私は、ついそう答えた。

まだ、離婚はしないから。

この日も、いつもと同じように一日が終わった。

でも、クローゼットに隠していた段ボールは、

もう隠れていなかった。


出発が近づくにつれて、

段ボールは少しずついっぱいになっていった。

息子の本や、幼稚園の思い出の品。

学校の先生が届けてくれた教科書も入れた。

計画していたものは、だいたい箱に収まった。

あとは、毎日使っているものを残すだけになった。

出発の二日前、

いつものようにご飯を炊いた。

翌日と、出発する日に食べる分をおにぎりにして、冷凍した。

これで、この家で炊くご飯も最後かな。

そう思った。

出発前日。

朝から、荷物の最終確認をした。

息子のゲーム関係は最後まで残して、

荷物を二つ、完全に閉めた。

あとは集荷を待つだけになった。

午後、ゆうパックの集荷が来た。

荷物を渡した。

クローゼットに隠していた段ボールが、

ついに、家から出ていった。

日記には、

「荷物を発送した。やったー。満足。」

と書いていた。

明日は、私と息子が出ていく。


翌朝。

今日は実家へ行く日。

息子はまだ寝ていた。

身支度をして、荷物を確認した。

息子が起きると、

いつものようにハニーミルクを作った。

お腹が空いて、

せんべいを少しつまみながらタクシーを待った。

予約していたタクシーが来て、

息子と二人で家を出た。

タクシーの中で、

息子はヘッドホンをして動画を見ていた。

思っていたより落ち着いていた。

駅に着くと、

切符を買って、待合室で少し待った。

息子が「お菓子買いたい」と言うので、

コンビニでお菓子を買った。

ホームへ向かうとき、

エスカレーターが苦手な息子に、

「エレベーターで行く?」

と聞いた。

「階段で行く。鍛えられるしね。」

と言って、階段を上っていった。

階段がきついのは私の方だ、と思った。

新幹線に乗って、東京へ向かった。

ここまで来れば、

あとは乗っていれば目的地に着く。

あと少し。

駅には、父と母が迎えに来てくれていた。

念願の、実家に着いた。

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