「四枚あるから、みんなで食べよう。」
息子はビスケットを四枚取り出して、そう言った。
父と母と、息子と私。
四人で一枚ずつ食べた。
ただ、それだけの出来事だった。
でも私は、その時間がとてもあたたかく感じられた。
実家での暮らしにも、少しずつ慣れてきた頃だった。
父と母は朝ドラを見ていて、
私は息子のゲームを見たり、少し編み物をしたりしていた。
特別な予定はない。
誰かが急かすわけでもなく、
それぞれが思い思いに過ごしていた。
そんな穏やかな朝だった。
息子がビスケットを食べると言って、
何枚出そうか、という話になった。
そこで息子は、
四枚出して、みんなで食べようと言った。
自分の分だけではなく、
じぃじとばぁばと、私の分も。
四人で一枚ずつ食べた。
ほんの短い時間だった。
ビスケットはおいしかった。
でも、なんだかそれ以上に嬉しかった。
みんなが同じ場所にいて、
それぞれ好きなことをして、
時々、こうして一緒に何かを食べる。
そんな何でもない時間を、
私はずっと欲しかったのかもしれない。
誰かが特別なことをしてくれたわけではない。
みんなが同じ場所にいて、
それぞれのことをしながら、
時々、話したり、笑ったりする。
息子がゲームの話をすれば、
誰かが聞いてくれる。
私が少し離れていても、
息子のそばには誰かがいる。
私一人で、
全部を受け止めなくてもいい。
そんな暮らしの中で、
私も少しずつ力が抜けていたのだと思う。
そういえば、
私が子どもの頃の家も、こんな感じだった。
みんなが同じ場所にいて、
それぞれ好きなことをして、
時々話して、笑う。
結婚した頃は、
どんな家庭にしたいのかなんて、
具体的には考えていなかった。
でも本当は、
私もこんな家庭を作りたかったのかもしれない。
息子にとっても、
「お母さんと二人」だけではない毎日は、
どこか心地よかったのかもしれない。
四枚のビスケットを見て、
自然に四人を思い浮かべた息子。
そのことが、
私は嬉しかったのだと思う。
きっと息子は、
そんなに深く考えていなかった。
何でもない朝に、
四人で一枚ずつビスケットを食べた。
それだけのことなのに、
私はあの日のことを、
これからも覚えている気がする。
それぞれ好きなことをしながら、
時々話したり、
一緒に何かを食べたりする。
私が作りたかったのは、
そんな何でもない家庭だったのかもしれない。
四枚のビスケットを、
みんなで一枚ずつ食べた。
それだけで、
なんだか幸せだった。
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